オンボーディングとは?メリットや実施時のポイントを紹介

人手不足などを背景に、近年新規採用の難易度やコストはますます上昇しています。また、採用人数が増えると教育コストも無視できなくなります。そのような課題を解決するために、離職率を抑えたり新入社員を早期育成したりする方法が考えられます。そこで注目されているのが新入社員に対する「オンボーディング」という取り組みです。本稿ではオンボーディングとはどのようなもので、どう取り組んでいけば良いのかを解説。新入社員の定着化に取り組んでおられる人事・採用部門の方に参考になれば幸いです。

オンボーディングとは

オンボーディングとは、ビジネス用語としては企業が新たに採用した従業員を対象におこなう教育プログラムを指します。有用な人材に育成するための施策やプロセスを意味し、対象は新卒者だけではなく中途採用者も含みます。船や飛行機に乗る「on-board」が語源で、元々は船などに新たに迎える乗客やクルーに慣れてもらうためのサポートプログラムを指していました。

近年はSaaS提供企業などにおけるカスタマーサクセスのプロセスの一貫としてのオンボーディングも重要視されています。主に新規利用者に対して、自社サービスの使い方や活用方法をいち早く理解してもらうことを支援するプロセスで、これにより顧客の定着化と離脱防止を図ることができます。

オンボーディングの目的

  • 新卒・中途採用社員 の早期戦力化

    新卒や中途採用の新入社員には覚えなくてはならないことが多数あります。実務の内容についてはもちろんですが、その他にも会社独自のルールやシステム、そして組織構成や社風など、理解して覚えるまでには時間を要するものもあります。オンボーディングには、上記のような自社のルールなどにできるだけ早くかつスムーズになじんでもらうことで新入社員が実力を発揮できるような環境を整えて、早期に戦力化する目的があります。
  • 離職の防止

    新入社員が会社になじめず、早期に離職してしまうケースが少なくありません。早期離職の原因には、業務そのものよりも人間関係やモチベーションなどのマインドセットの部分が関連することが多くあります。オンボーディングは、このような課題を解決して、早期離職を抑制するためにおこなわれます。具体的には、新入社員と既存社員とのコミュニケーションを促進して風通しを良くしたり、適切な目標を持ってもらうことでモチベーションを維持したりすることで、新卒・中途採用社員の早期離職を防ぐのが目的のひとつです。
  • 人材育成の格差是正

    新卒・中途採用時の教育研修をおこなう場合、基本的な研修終了後は配属部署先の現場に任せてしまうケースが一般的なやり方です。しかしその場合、現場の状況や教える側のトレーナーや資質に大きく左右されてしまい、現場に任せすぎると部署によって育成状況に大きく差が出てしまうことがあります。そのような格差を生じさせないよう、人事部門が全社統一のオンボーディングを実施します。

オンボーディングのメリット

メリット① 採用コストの削減

人材採用コストは年々上昇する傾向にあります。また採用後の育成コストも採用コストと同等かそれ以上必要だと言われています。新入社員が早期離職してしまうとそれらのコストがすべて無駄になり、さらに採用・育成コストがかかることになります。オンボーディングには離職を抑制する目的もありますので、これにより離職率を下げることができれば、さらなる補充人員の採用・育成時に発生するコストを削減することができます。

メリット② 業務の生産性・品質向上

正しくオンボーディングを実施することができれば、新入社員をより早く戦力化することが可能です。新たな人材リソースを投入できることで、現行業務の生産性や品質が向上することが期待されます。また、一般的に新入社員の育成指導には、平均値以上の優秀な社員が当たる場合が多いものです。オンボーディングによる早期育成によってそのような優秀な社員も本来の業務に集中できるので、この効果も併せて総合的な生産性向上が実現できます。

メリット③ 組織における結束力の向上

オンボーディングでは、新入社員と既存社員間のコミュニケーションを促進したり、メンターがさまざまな相談・指導を実施することで、組織間の相互理解が進みやすくなります。これにより、社員間で業務上の目的やゴールの共有も活発になり、相互に協力し合う土壌が培われます。また会社がどのようなことを考え、なにを求めているのかも的確に理解できるようになります。その結果、組織の結束力を向上させ、会社や組織に対する帰属意識を高めることにもつながっていきます。

メリット④ 従業員満足度の向上

従業員満足度が低下するのは、目的意識の低下や評価制度などに対する理解不足や不満、また、人間関係や職場環境の悪化などが主な原因だと考えられます。オンボーディングを通じて会社の方針や評価制度などをしっかりと理解することができれば、自らがどのような方向に進んでいけばよいのかが明確になり、迷いなく業務に集中することができるようになります。また、新入社員と既存社員間の意思疎通やコミュニケーションが促進されることで人間関係や職場環境が改善し、従業員満足度が向上します。

オンボーディング実施時のポイント

ポイント① しっかりとした教育体制を作っておく

新入社員が入社時に学ばなければならない範囲は非常に広いです。系統立てて学ばなければ決められた期限内で習得するのが難しいでしょう。従って教育カリキュラムも行き当たりばったりのものではなく、合理的かつ効率的なものを作成しておく必要があるでしょう。さらに、カリキュラムだけではなく、具体的に指導・教育を担当するトレーナーや現場担当者などを交えて、「しっかりと新入社員を受け入れる体制」を構築しておかなければ、新入社員と教育担当者双方に不満が溜まり、オンボーディングも効率良く進みません。

【参考記事】人事担当者必見!新人教育の提出物管理を仕組み化する方法とは?

ポイント② しっかりとした移行計画・移行手順を策定する

移行の方向性が決まったら、それを具体的に実行するための移行計画と移行手順を策定します。前述のように、移行先にはさまざまなシステムやアプリケーションが考えられ、さらにNotes上のアプリケーション間のデータは複雑に絡み合っているケースが多いでしょう。また移行対象のなかでも優先度はさまざまです。そのような状況下で重要度や難易度、コスト、工数などを考慮してもっとも合理的な移行計画と移行手順を策定します。

ポイント③ 細かな目標を設定する

入社当初から大き過ぎる目標を立てると、達成までの具体的なイメージが持てなかったり、なかなか達成する見込みが見えてこなかったりします。これでは目標達成へのモチベーションを維持するのが困難です。そういったことを避けるために、目標を細分化して、それらの小さな目標達成を積み重ねることでモチベーションを維持しながら最終目標が達成できるような方法が採用されるケースが多くなっています。この方法は「スモールステップ法」と呼ばれています。

【参考記事】社員のモチベーションを高め、会社全体の目標達成に繋げるMBO(目標管理制度)とは?

ポイント④ 人間関係構築が円滑に進むように働きかける

人間関係は、早期離職に至る主な原因のひとつです。従ってオンボーディングでも、良好な人間関係の構築が円滑に進むように、積極的に働きかけることが必要です。まず入社時に、新卒・中途採用のいずれの場合でも、人事部門と新入社員との信頼関係を築いておくことが必須でしょう。また、トレーナーや先輩社員、上司やさらには経営層などとの風通しの良いコミュニケーションができるように適宜フォローすることも大切です。人間関係をはじめさまざまなことが相談できる同年代のメンターを付けておくのも効果的です。

ポイント⑤ 優秀なトレーナーを育成しておく

教育研修を直接担うトレーナーの育成スキルは、オンボーディングの結果にも大きく影響します。またOJTを担当する先輩社員やメンター役を務める社員のスキルも同様です。従って優秀なトレーナーやその他の教育担当者を育成しておくことがオンボーディング成功のカギとなります。教育トレーナーの育成には専門的なスキルが必要なため、社内にそのようなスキル保持者がいない場合は専門企業などの手を借りることも検討したほうが良いでしょう。

オンボーディングの具体例

具体例① 日本オラクル

日本オラクルでは、社員自らが企業貢献を望むようになる「社員エンゲージメント」の育成をオンボーディングで最も重視しています。採用時の研修では、経営理念や組織形態、社内ルールなどの中途採用時の研修ではあまり重視されないような内容もしっかりと教育しています。
次の段階のOJTでは配属先部署の上司などの負担が大きくなることが懸念されますが、現場への負担を最小限にしながらも、十分なフォローを実現するために「ナビゲーター」や「サクセスマネージャー」と呼ばれる専任スタッフを配置しています。その結果、同社が重視する社員エンゲージメント率85%を達成することができました。

【参考記事】エンゲージメントとは?意味、向上させる方法、評価方法を解説

具体例② サイボウズ

サイボウズでは事業拡大に伴い従業員が急増。その結果、能力や経験などに徐々にバラつきが目立ち始めましたそこでオンボーディングを導入し、これまでの経験に関わらず業務内容や組織のルール、文化などを一から新入社員に教えるようになりました。
オンボーディングプログラムは、新卒・中途採用を問わずすべての新入社員を対象に実施。まず自社製品や組織に対する理解を深めることから始め、提案パターンを習得するための商談実習、最後に周辺ビジネスへの理解を深めるための座学や研修課題の発表などが続きます。同社には、入社後でも継続的に学ぶことができるよう「サイボウズアカデミア」という制度があります。すべての社員が自由に参加でき、さまざまな学びを得ることができる制度です。

具体例③ 富士通

総合SIerの富士通の社員には、IT関連のみならずさまざまなスキルが求められます。新入社員の戦力化を早めたり、さらにチーム内の人間関係の円滑化や定着率向上を目的にオンボーディングを開始しました。同社で中途採用者に対するアンケートを実施したところ、「入社当初、組織にスムーズになじむことができなかった」という回答が複数あったと言います。
このような状況を経営層も目の当たりし、オンボーディング強化の必要性を認識したところから具体的な施策が始まりました。2019年から入社後90日間のフォロー体制を開始。新入社員全員に専任アドバイザーを付けて、現場配属後も個々人の状況に合わせたポートを継続しています。

具体例④ メルカリ

メルカリではITを活用したオンボーディングが特徴です。オンボーディングに必要な情報はポータルサイトに集約されているので、必要な時に必要な情報を手に入れることができるようになっています。また、技術領域ごとにKPIを設けてサーベイを通じて進捗確認を実施。さらにデータを可視化することで、客観的にオンボーディング状況の把握ができ、新入社員は各人の状況に従った適切なサポートを受けることができます。
オンラインによるリモートオンボーディングもおこなっており、海外に在住していてもオンボーディングに参加できる環境を構築しています。リモートオンボーディングでは、週1回、1対1で新入社員の話を聞いたり、今持っているタスクの整理をしたりしています。

具体例⑤ GMOペパボ

GMOペパボでは、従来部署ごとにオンボーディングを実施していました。しかしこれにより「企業への帰属意識が育ちにくい」という課題が発生していました。そのような課題を解決するために、オンボーディングを「全社共通の施策」へとシフトしました。
具体的には、主体的に企業経営に関わっていくためにどのようなリーダーシップを発揮したいのかを表明する「やっていきシート」を導入したり、新入社員と教育担当者の全員が自由に対話できるチャットルームなどを開設。これらにより部署の垣根を取り払って、企業全体で新入社員を育てるような、本来の社風が発揮されるようになったと言います。

まとめ

オンボーディングとは、新卒・中途採用者の早期離職を防ぎながらできるだけ早く有用な人材に育てるためのプログラムです。人材育成の他にも、SaaS製品の新規利用者に対する早期定着化プログラムなどへも応用されています。オンボーディングには、離職率を抑えることで採用コストを削減したり、業務の生産性・品質を向上させたりするメリットがあります。実施に際しては、事前にしっかりとした教育体制を作っておくことや、関係者全員で新入社員の目標や期待値を合わせておくことなどが重要なポイントになります。

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この記事の執筆者:ヨウ(マーケティング本部)

新卒でドリーム・アーツに入社。
2021年からマーケティンググループの一員になりました。
記事執筆は初心者ですが、皆様のお役に立てる情報を発信していきたいと思います!